スチャラカもくれんタマスダれ
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「起きないから、奇跡って言うんですよ……」


 あたしには、妹がいた。たった一人の、可愛い妹。
 いつも微笑みをその絵に浮かべて、言ってはなんだけど、子供っぽい絵を描いて。
 あたしと妹は、とても仲が良かった。この少子化の時代、姉妹を持っている友達も
少なかったけど、それでもあたしたちの仲の良さには敵わないと思っていた。

 妹は重い病を患っていた。その為に生まれた頃から病弱で、
調子の悪くなった妹を、何度あたしが迎えに行ったことやら。
 でも、妹はそんなことを感じさせない位、こちらを和ませて……
いや、一緒に楽しくなるような笑顔を持っていた。

 だから、あたしは妹の病気を楽観視していたのだった。
これだけ楽しそうな妹が、死ぬはずがないって。
 まるで、夜に放送されるドラマの様に、奇跡の回復を遂げるんだって。
でも、それはあくまでも架空の世界の物語だった。
 
 いつもの様に学校から帰ってきたその日、痛ましげに。
あたしが学校に行っていたほんの数時間の間に痩せ細ってしまった母は言った。

「今日ね、栞がね、……、今度の誕生日まで持たないって、お医者様が……」

 世界の崩壊。私の一番大事な物が崩れてゆく感覚。


 あたしには、妹がいた。たった一人の、可愛い妹。




「ふわ……やっぱ、風呂上がりのコーヒー牛乳は最高だな」
 年寄りくさいかもしれなかったが、俺は左手を腰に置き、
右手にはコーヒー牛乳の瓶を持ってグビグビと飲み干す。
「ちっちっち。甘いな、相沢。風呂上がりと言えば冷えたビールよぅ!」
 ごげしっ。香里の全く容赦ないチョップが北川にヒット。
うあ……痛そうだな。目に涙が溜まってるし。
「全く……馬鹿なこと言ってるんじゃないわよ。
こらそこ、冷蔵庫からビールを取り出さない!」
「え……? 北川くんがビール飲むんじゃないの?」
 名雪が首を傾げて、それでもなんとなくか納得してビールを元の位置に戻す。
大体、いつの間に水瀬家の冷蔵庫にビールを持ち込んでいたんだ、北川。



 そんな事をしている内に、自然解散となってそれぞれが自分の寝床へと向かう。
いつもならばこれでぐっすりと寝る所だが、今日の俺には聞きたい事があった。
そう。北川と香里の事だ。こいつら何時の間にくっついた。
忙しい事もあり、今まで聞き出せなかったのだが、今日こそ教えて貰うぞ。
これまで俺と名雪のプライバシーに堂々と進入してきたつけは払って貰わないとな。
 そんなことは露知らない北川は、いつの間にか寝入っていた。

「おい、起きてるか、北川?」
「ぐぅ……ぬぅ……おお、それは幻の黄金ビール!」
 ……どうやら、ビールに未練が残っているらしい。
「起きろ、北川!」
 言いながらも俺は北川の枕を引っこ抜く。
だが……ぱふ。秋子さん直々にご入手のふんわかお布団は、
その衝撃をやんわりと受け止めて、北川の安眠を妨げない。
 仕方なく俺は、腹の辺りに一撃を叩き込んだ。
「ぐほぅっ! どげらすぴー!」
 床で暴れる(俺はベッドだが、北川は床に布団を敷いて貰っている)北川を
ベッドに乗ってやり過ごすこと5秒。
「てめえっ、何しやがるぅっ! 白いワンピース着た子供が俺を呼んでたぞ!」
 錯乱しているのか理解不能な事を言って来る北川。
つっこみたい気持ちを深呼吸で抑えて。
「うむ。実は北川に聞きたいことがあるんだ」
 北川は俺の言葉に何故か青筋を立て、俺の手にあった布団を引ったくると
ささっと寝床を整え、ぐーすかと……。チェイッストッ!
俺のベッドから飛び降りてのエルボーは不発に終わる。というか、痛い。
「何やってんだお前は……」
 まあ確かに今回ばかりは呆れられても仕方ないかもしれなかった。

「ああ。だから、北川に重大な事を聞きたいんだよ」
 真摯な俺の目線を受け止めて、北川の顔つきも次第に締まってゆく。
「実はな……お前の下の名前って何て言うんだっけ?」
「寝る」
 だから、一秒で物事を終わらせるなって。秋子さんでもあるまいし。
「悪かったよ、北川。他に聞きたいことがあるんだ。
どちらかというと、こちらの方が本題なんだが」
「……お前、本当に覚えてくれてないのな」
 そう言うと、悲しげな顔をする北川。まあ、これだけつき合いがあって
名前を覚えていない俺が全面的に悪いんだが……。そこまで拗ねなくとも……。
「潤だよ。北川 潤」
「一応言っておくが、俺の名前は相沢 祐一だからな。覚えておけよ」
「いつまで経っても人の名前を覚えられないのは、お前くらいのもんだ」
 むう、それはあまりなお言葉。などとボケている暇もない。
何しろ、明日も学校はあるのだから、早めに疑問を解消して睡眠時間を確保せねばな。

「お前と香里さあ、いつからつき合っているわけ?」
 俺の言葉に、またしても北川は渋い顔をする。
「それも前に言ったぞ。お前らが学校を休んでいる間だ」
「そうだっけ? まあいいか。それで、理由はどうなんだ?」
 北川は満面に笑みを浮かべると、いけしゃあしゃあとこう言ってきた。
「ふっふっふ。それはな、長年に渡る俺の努力が実ったのさ」
「長年もかかったのか。それは大変だな」
 ふざけた台詞を一蹴してやると、とたんに肩を落とす北川。
「お前って、本当に容赦ないよな……」
「そうだ。で、本当の理由は?」
「ふっ。それはこの俺の優しさに美坂さんが漸く気付いたのさ」
 ふさっと髪を掻き上げて気障な台詞を……こいつはまだやるか。
「ったく、人の惚気にはつき合ってられないよな。やっぱ俺寝るわ」
「いや、本当なんだって」
 北川は慌てて弁解する。しかし、やっぱ信じられない。
「それに、俺にも本当の事は良く判らないんだ。
あんまり、美坂さんは自分の事を話してくれないしな」
「ま、確かにそういったタイプだよな。見た目からして」

 ガチャッと俺の部屋の扉が開けられる音がした。
扉の隙間から垣間見えたドアを開けた張本人の髪の毛は、暗くてよく分からなかったが
独特のウェーブがかかっていた。
 慌てて俺たちは寝入った振りをする。名雪なら寝ぼけているだろうから、
どうにでもなるだろうが、香里に限ってそれはないだろう。
ただ、既に遅し、その言葉が脳をかけずり回っていたけれど。
 
 部屋に入るなり、「へぇ……面白い話をしてるわね、二人とも」等と
恐ろしい笑顔を見せて言ってくるかとも思ったが、
香里は何も言わずにドアを後ろ手に閉め、部屋の中央へと足を進める。
北川を踏みながら。やはり怒っているらしい。
 そう推測した俺たちの目の(細目で、こっそりとな)前で、
香里は俺たちの予想もつかない行動を取った。
 ぱたっ、と倒れ込んだかと思うと、北川の布団に入り込んで
そのまま安らかな寝息を立て始めたのだ。

…………
ひゅーひゅー。
 二人の仲を揶揄して口笛を吹く俺には勿論気付かない香里。
北川は、というと……顔を真っ赤にしてあうあう言っている有様だった。
「いようっ、仲が良いね、お二人さんっ!」
 いざこういった場面で「そうだろ。はっはっは」なんていう風に
答えが返ってきたら俺も北川の評価を50%程アップしてやっただろうな。
当然、当の北川は陸に打ち上げられた魚みたいに(以下略)。

 パタパタ……ドスン。カチャカチャ……ダタ。
 前半は名雪が廊下を歩く音に、俺の部屋のドアに頭をぶつけたであろう音。
後半はドアを開ける音に、閉めた音だ。何故、名雪まで入ってくる……。
 名雪は部屋を間違えているにも関わらず、しっかりとした足取りで、
そう寝ているはずなのに結構確かだ、「寒いよ〜」と布団に潜り込む。
ここは俺の部屋なので、その布団は当然俺のもので……。
んでもって、「けろぴー」寝言で呟きながら、俺をぎゅっと抱き締める。
その所為で揺れた視界に、北川の顔がフェード・インする。
『はっはっは。人の事言えるのか、この野郎」
何よりもその顔が雄弁に北川の気持ちを物語っていた。
 俺はこれまた表情で答えを返す。
『香里の寝返りで肺を潰してしまえ』
どんな大声を出した所で名雪が起きてしまう
のではないか、といった心遣いのはずもなく、ただこの状態で香里を起こすのが
ひたすら怖かったからである。




 妹の病状は日に日に悪化していた。
知らない人ならいざ知らず、あたしには手に取るように妹の体調が判っていた。
事ここに至っては、医者の言葉を信じざるをえない。

 そしてシトシトと雨の降っていたその日、
あたしは親に口止めされていた病状を、病を患っている当人に教えた。
一字一句違えずに、医者の言葉を鸚鵡のようにただ繰り返す……テープレコーダー。
その時のあたしを表現するには、そんな言葉が最も適当だっただろう。

 録音された記憶が止まった時、妹はこう言った。

「でも、もし奇跡が起きたら、起きたらだけど、またお姉ちゃんと遊べるよね」

 あたしは、こう答えた。

「奇跡ってね、そんなに簡単に起こる事じゃないのよ。
そう……起こらないから、奇跡って言うの」

 姉として、人として。最低の…………答えだった。



 美坂 栞の病状はそれからも日増しに悪化してゆく。
それこそ、事情を知らない赤の他人でさえ一目瞭然な程に。
 そして、彼女の周りに当然の如くあった美坂 香里の匂いはもはやなかった。
人との繋がりを断たれ、肉体的にも精神的にも。残り少なくなった命の灯火。
ゆっくりと、しかし確実に炎は彼女の体を蝕む。
彼女は支えとなるべき人も失い、そして……この世を去った。



 いつもの様に学校から帰ってきたその日、悲痛を隠しもせず、隠せもせず。
母は、病院から戻ってきていた。
意味することは一つで、あたしには判りきっていた。
「今日ね、栞が……ついに…………」
 言葉の終わりは自制を突き破った感情の洪水によって押し流された。
そんな母を冷たい目で見つめて、あたしは……。
醒めた眼差しで母に「残念だったわね」と告げるはずのあたしは……。

 何も言えずに家を飛び出した。妹との思い出の数多く残る場所から逃げ出す為に。




「よっしゃあっ! 2週目クリアー♪」
 もう9時をとっくに過ぎた時間のゲームセンター。
そこで俺は誰も見向きもしないようなレトロゲーム(と、言うほど古くないが)に
熱中していた。叫んだ後に沈黙が続いたのは、ちょっと寂しくもあったけどな。
 ま、そろそろいい時間だし、帰ろうか。この時間までいれば、
塾をサボっていた事もばれないだろ。そうだなぁ、帰りに丼村屋の肉まんを
買って帰って親の歓心をかっておくとするか。
 
 温かい紙袋を両手で抱えて、すっかり静かになった商店街を一人で歩く。
よくもまあ、これだけ雪が降っているのに店を開けていてくれたよな。
とりとめのない事を考えながら、街を歩く。……やっぱり寒い。
駆け足で踏み出そうとした俺はふと、ウェーブのかかった髪に気付いた。
あれは……美坂さん? この夜中にコートもなしにか!?
 俺は急いで彼女に駆け寄って自分のコートをかけた。
その時に少し触れた彼女の肩は、この寒さで凍りついているかのようだった。
「美坂さんじゃないか。どうしたんだよ、一体こんな時間に……」
 でも、彼女は全然俺の事に……コートをかけたことにさえ気付いていない。
目には生気なく、ただ虚ろに見開いて。足は棒のように、ただ前へと進むだけ。
「美坂さんっ!!!」
 大声を出して呼びかけながら、肩を掴んで前後に強く揺さぶる。
それでようやく、彼女は俺に気付いてくれた。
「あ、北川くんか……今晩わ」
「おい、こんな時間にどうしたんだよ? 体も随分冷え切ってるじゃないか。
どっかそこいらの店に寄っていこうぜ」
 思い返してみると、どう聞いてもナンパにしか聞こえない台詞だったが、
その時の俺は美坂さんの事が気がかりだった。
 やっぱりどこかおかしい美坂さんは、俺の提案に頷いていたのだった。

「ふう、このファミレスは23時まで開いているからな。いつも助かってるよ」
 その時になってようやく状況に気付いた俺は、
美坂さんに何も言わせないように、とマシンガン宜しく休む暇なく喋り続ける。
これじゃ、まるでデートみたいじゃないか……。
 美坂さんも少しだけ、落ち着いたみたいだった。
「ところで美坂さん、どうしてこんな時間にあんな所にいたんだい?」
「別に……なんでもないわよ」
 嘘だよな。普段の美坂さんなら、俺なんかじゃ判りっこない嘘を付いて
俺を煙に巻いて終わり、だもんな。
「なんでもない、なんて言っている時点で何かあるんだってすぐ判るぜ」
 美坂さんが自分の失言に気付いて、それで会話がパッタリと途絶えた。
 その内に俺はその雰囲気に耐えられなくなって、
「も、もう落ち着いた? じゃ、じゃあ俺はここで帰るから……」
「待って」
 美坂さんが、俺を引き留めているだって!?
「途中まで……一緒に帰らない」
 俺は勿論、快く承諾した。



「とある所に、一組のとても仲のいい姉妹がいたの……」
「へ? いきなりどうしたの?」
「黙って聞きなさい」
「はい」
 ちょっと情けないな、俺……。
「その妹は、重い病を患っていたの。でも、姉はそんな事、気にしてなかったのよ。
 ほんの少しずつだけど、妹の病気は進行していた。現代医学でも治療できない、
とても難しい病気だから」
「そう」
「幾度も季節が巡ったその日、お医者さんは妹の命をあと一年と診断したわ」
「ドラマなんかではよくある話だな」
「そうね……本当、そうよね。そして、姉は妹にその事を告げたのよ。
その時、妹はこう言った」

「でも、もし奇跡が起きたら、起きたらだけど、またお姉ちゃんと遊べるよね」
 その頃にはいくら鈍感な俺でも、その”姉”が美坂さんである事に気付いていた。
「姉はそんな妹にこう言ったわ。
『奇跡ってね、そんなに簡単に起こる事じゃないのよ。
そう……起こらないから、奇跡って言うの』
 それは、姉として、人として。最低の…………答えだったわ。
それから姉の態度は急変したわ。妹を無視して、それで全てを誤魔化そうとしてのよ。
妹はその事を悩んで、苦しんで……そのまま死んでいったわ」
 そこで美坂さんは大きく息を吐いた。そして、最後の言葉を続ける。
「『あたし』は自分の手で奇跡を手放したのよ。
でも、一番それを望んでいたのは……」
 皆まで言わせず、俺は美坂さんを優しく胸の中に抱き入れた。
「ちょっと、何どさくさに紛れてやってんのよ……」
 そういう声も、弱々しい。俺の知らない美坂さんの姿。
「いや、こうして欲しいんだと思ってさ」
「似合わないわよ。まるで祐一君みたいね」
「うわっ、酷いぜ、それは」
 何だかんだ文句を言いつつも、美坂さんは俺から離れようとはしなかった。

 そして、その時から俺たちの恋愛は始まっていた。
お互い、何故こうなってしまったのかどうしても分からない。
ただ、そこに絆が存在しているのは確かだった。



 そう、全ては偶然だったんだ。もしその日美坂さんが会ったのが
他の誰かで、その誰かが俺と同じ行動をしていたら、今のこの俺の場所にいるのは
その見知らぬ誰かだったのかも知れない。
 でも、今ここにいるのは俺だ。俺以外の誰にも譲ってやる気はない。
そして、美坂さんも俺を頼りにしてくれている。
決して口には表さないし、そんな素振りも見せてはくれない。けれども。
 いつか、俺が気張らず自然に『香里』と呼びかけられたその時、
二人の関係はもう一歩進んだものとなるだろう。その日が、待ち遠しい。



『朝〜、朝だよ〜。朝ご飯食べて学校へ行くよ〜」
 何カ月経っても、この目覚ましで目覚められる自分が不思議だ。
「ふあ〜。さて、今日も頑張ろうか!」
 シャッ。勢いよくカーテンを開けると、春の日差しが部屋の中に射し込んでくる。
うーん、いい気分だ。と、大きく伸びをして戻す。
いつもの様に顔を自分の部屋の中央にへと向けると、香里と目があった。
…………
「きゃああああぁぁぁっっっ!」
 名雪が俺のベッドで寝ていて、当の香里は北川の布団に潜り込んでいる。
何というか、とても淫靡な事があったんじゃないか、と思わせるに足る状況だった。
って、冷静に観察している場合じゃないだろ!
「……ふぇ、祐一? どうしたの?」
 おお、流石にこの叫声の中では名雪でさえ寝続ける事は不可能だったか。
俺はまたしても現実逃避して、ただただ感心していた。

「な、名雪、昨日の夜は何もなかったわよね? ね?」
 声が震えてるぞ、香里。
「えーと、美坂さん? 昨日はね、」
「いやあああぁぁぁっっっ! 聞きたくないっ! 聞きたくないっ!」
 墓穴を掘った北川が、暴れる香里に突き飛ばされて壁に勢いよく、衝突……?
なんていう力だよ……火事場の馬鹿力の域に辿り着いてないか?
「だーかーらぁ、落ち着けっ、香里っ!」
 巻き込まれたくない俺は、壁にぴったりと寄り添って香里に声をかける。
「うーん、北川くんも、祐一みたいな悪戯をしなくてもいいのに……」
 相変わらず、普通の少女と感覚がワイドにずれている名雪。
「ただ単に、お前と名雪が俺の部屋に間違って入ってきただけなんだよっ!」
「……うー、本当?」
 子供みたいな涙声で、香里は問い返す。殺人的に似合ってなかった。
「それは言い過ぎよ」
「そうだよ、それは言い過ぎだよ」
「名雪〜、それはどういう意味なのかな〜?」
「ええと、ふぇふにふぁいふぃふぁふぉふぉじゃないよ」
 香里が名雪の口をこれでもか、と引っ張る。
済まん、名雪。俺の身代わりになっていてくれ。
 その隙に、俺は北川を介抱する。
「大丈夫か、北川? 傷は深いぞガックリしろ!」
「それは……Kanosoネタだぞ……いいのか?」
 相変わらず理解不能な事が大好きな奴だ。

 等と俺たちが馬鹿をやっている間に、ようやく香里も冷静さを取り戻してくれた。
「さあさあ、女性陣はさっさと出ていった出ていった。
俺たちの着替えを見たいっていうのなら話は別だが」
「……言われなくても出ていくわよ」
 ほっ。いつもの香里だ。
「あ、そうだ。……みんな、おはよう」
 その名雪のボケ(?)が、その日ようやくの、遅めの始業の鐘を鳴らしていた。

 次回予告
 時は人間が思っているよりも早く過ぎてゆく。時として残酷なクロノスの螺旋を描く。
その過ぎゆく時の中で育ってゆくものは。絶望か、あるいは……。

次回、session 5 New school year

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